会うは別れの…

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「それからな、欧米諸国には、レデーファーストなる習慣があるがな、これだって、男が腕力的に強い立場にいるから、弱い女を守ってやらなければならない、という考え方からきたもんじゃよ」 「ふううん、そういうもんですかね」 「そういうもんじゃ。だから君も、もっと心に余裕を持って、女性に対するようにしなくちゃならんぞ。さすれば、自ずと道は拓ける」 「ありがとうございます、おかげさまで気が楽になりました」 「うむ、そうか、それはよかった。まぁ、あれだな、いつまでもクヨクヨせずに、早いとこ、新しい彼女を見つけるんだな。どうしても、というなら、うちのばあさん、貸さんこともないが…」 「いえいえ、それには及びません、結構です。さいなら」   「ああ、驚いた。何言い出すかわかんないな、あのじいさん…。でも、いいこと聞いたな。差別じゃなく、区別だ、か。……。あっ、そうだ。隣の石井に、この話してやろう。あいつ、いっつも俺のことバカにしてるからな、ちょっと賢いところをみせてやろう」   「おーい、石井。いるかい?」 「何だ、山崎か。オレ、これからちょっと用があるんだけどな」 「まぁまぁ、すぐ済むって。ちょっと、座らせてもらうよ。よいしょっと。ええっと、何だっけな。あ、そうそう。おや、誰かと思ったら、裏のアパートの山崎亮君、21歳大学生じゃないか」 「何言ってんだ、お前。山崎はお前だろ。それにオレはお前の隣だ」 「…、あ、そうか。お前、今日から山崎にならないか?」 「やなこった!」 「じゃ、やり直して、と。おや、誰かと思ったら、隣の石井ハジメ君、21歳大学生じゃないか」 「何言ってんだ、お前」 「ま、ここじゃなんだから、上がりなさい」 「どこに上がるんだよ!」 「おーい、ばあさんや、隣の石井君だ、コーヒーと腐ったケーキを」 「ばあさんなんて、いねぇよ!何だ、お前、コーヒーほしいのか?それならそうと、素直に言えよ、オレ、忙しいんだからさ。ほら」 「ま、インスタントだが我慢してくれ」 「てめぇ、張り倒すぞ!せっかく淹れてやったのに」 「で、どうした?何か困ったことでもあったかい?」
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