花屋のある街

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この街は冷たい この街の人は冷たい あたしが 何かしたのだろう どうにもならないし、どうでもいい 13歳で売られて この商売を10年 擦り切れてきちまったよ まあ いいさ 親を恨んだ事なんてないよ そんなにゆっくり 生きた事なんてないからね 呑んだくれの親父が金に困ってあたしを売った時 あたしは正直 せいせいしたもんだよ もう忘れたけどね… あたしは今 街に立って お客を待ってるんだよ 寒いせいかね 誰もが背をまるめて 急ぎ足 「君」 あらお客さん 「ここで何をしている?」 そんな事聞かれた事ないよ 見りゃわかるだろ、仕事だよ 「え………」 だけど 振り向いて 答えられなくなったんだ 綺麗な身なりの紳士ってやつさ 上客だよ 「ここで、何をしている?」 真っ直ぐにこっち見て 聞いてるんだよ 「あ…あたし…は、は、花を見てる…んです…」 咄嗟に なんで そんな嘘付いちまったのか… 男は目の前の花屋とあたしの顔を交互に見比べて いいさ 馬鹿にすればいいよ あんたの様なお人には あたしみたいな みすぼらしい者の事など わからないだろうから 「花が好きなのか…」 男は一言 行っちまったよ どうかしてるよ あたしは 場所を変えよう今日はどうも 商売がうまくいかなそうだな… 足が冷たい この靴は安物で この街の冬の寒さには 堪えられないよ だけど あたしは 歩く歩く 細々 女独りで暮らしてんだからさ 淋しさなんて もう感じないよ 忘れちまった 「君っ!」 肩を掴まれて 振り向く 今度こそお客だよ 「外でずっと見ていては、凍えてしまうよ…よければ持っていきなさい」 男はあたしに 綺麗な 雪の様に白い花束を あたしは 何が何だかわからず 馬鹿みたいに 突っ立って 「君が、ずっと外に立ってたのを見ていたから…その…」 さっきの男は口ごもって言ったけど こんな事は初めてで あたしは 気付かず 涙が落ちて 前に泣いた時の事を 考えてたよ あたしとあの人の 出会いで始まり あれから 何年経ったんだっけねえ あんた
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