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「あの…おやじは?」
俺を取り調べてる警察のおっさんに恐る恐る尋ねてみた。
「そっか、君は知らずに逃げたのか。」
深刻そうな重たい空気が、教えてくれた。
死んだんだ。
「すぐに病院に運ばれていたら違ったかも知れないが…運悪く…病院に着く前に…。」
言葉が出ない。
「出血多量でね。通報も隣の302号室の奥さんがしてくれたらしい。」
俺が通報してたら助かったのか?刺しただけぢゃなく、見殺しにしたのか?
「念の為に言っておくが、君がすぐ通報してたとしても、助かっていたとは言い切れない。しっかり急所に入ってたからね。」
俺が殺った。
それは何も変わらない。
黙って話を聞き、
ボソボソと全てを話した。
「精神的に不安定だったこともあるし、状況から殺害の意思も感じられない。ま、軽くなると思いますが、君が苦しむのは罪の重さ故だから、お父さんの最後の言葉を忘れちゃダメだよ。」
暗く重い時間が過ぎていった。
俺はどうしたらいいのかわからなかった。
言葉が出ない。
何もかもが現実に思えなくなっていた。
おふくろが死んでもう6年が経ち、身内はおやじ1人。
そのおやじも……。
おやじの遺産もあり、
生活には困らないことを聞かされた。
おやじは、俺が何をするにしてもおもいきって出来るように貯えていたことを聞かされた。
涙が滲む。
ろくに帰りもせず、
よれよれの小さい背中のおやじは、
俺の為によれよれになっていたことを知った。
「おやじ……。」
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