bio

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ジルは久しぶりに『恐怖』を覚えた。たったの10m。ただそれだけ距離を置き、隣で自分と同じように痕跡を探っていた同僚が犬に襲われているのだ。全身から冷や汗が吹き出し、背中を伝う気持ちの悪い感覚を覚え、気付けばいつものようにホルスターから銃を抜き、標的めがけて射撃していた。 『ジョセフを守る』 だけではない。 『ジョセフを犠牲にしてもなんとか犬を追い払いたい』 が人間として正しいところだろう。 『パンッ!』 一発目の弾が発射される。ジルの憤怒と無念を背負って。 弾はストッピングパワーを重視し、鉛で弾頭を覆ったホローポイント弾。人間ですら、足に当たれば動けなくなる。そういうもののはず………だった。 ジルはジョセフに当たらぬよう注意を払い、確実な体部分を狙い撃った。が、犬は意に介せずひたすらジョセフを食していた。 『あぁ…』 無念。もう一発、二発、やっと一匹が離れた。ダンダンッ!ダダンッ!立て続けに4発。2発はそれていったような感じだった。だが、通常の犬であれば一発食らえば死にゆくはず。そのパニックからかまた2発、弾は犬をかすり、土へ埋もれた。 ジョセフを見、さすがに諦める。 ヒューヒューと聞こえる息。ジョセフはもう間に合わない。血が吹き出し、アーマーベストを濡らす。 立て続けに三発犬に叩き込み、もう一匹を離す。 残弾を覚える余裕は無かった。 残りのマガジン分全て叩き込むが、手応えは感じられなかった。 『ダンッ!カチンッ…』 絶望の音が鼓膜を揺らす。ジルを嘲笑うかのように。 『カチンッ…カチッ…』 空薬夾から一筋の硝煙。無念と絶望の。 予備のマガジンを装填する。ただそれだけの動作をジルが思い出したのは、犬がこちらへと猛ダッシュしてきたその時であった。
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