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犬は敏速に、ただつっ立っているその女に向かって走った。警察犬ともなりうるドーベルマンだ。その足の速さは尋常ではない。
ジルはマガジンを装填している間に死ぬことを悟り、諦め、恐怖から腰を抜かし、ヘナヘナと土に尻餅をついた。距離、5m。もうダメだ……………
諦め、目を閉じる。
『ガァウッ!』
犬はとびかかり、人の肉を欲した。
と、『ズパァッ』っと銃声が響き渡る。
頭に一撃。キャンッと犬らしい声を漏らし、それは死に堕ちた。
すぐ目の前。犬の生暖かい血を浴び、とてつもない不快感。犬の腐敗臭を鼻に感じた。よく見れば、筋肉が露出し、半ば腐った犬。なぜ?………だが生きていた。自分は生かされた。
『こっちだ!』
クリスの甘い声。あぁクリス………本当にありがとう…
顔についた血を拭いながら、そう思う。が、まだ恐怖で声が出てこない。犬はさらに増え、目で確認できるだけで3匹、その後ろにもいるだろう。クリスとジルは全力で走った。
『バババババババババッ……』
上空ではヘリの音。
『ま………まさか…』
ヘリにはs.t.a.r.sの刻印。間違いなかった。間違いなかったし、間違いであってほしいその残酷さに、思わず声を張り上げるクリス。
『ブラッド!どこ行くんだ戻ってこい!畜生め!』
ヘリには届かない。
もう助からないのかもしれない…
そう思い、ふと後ろを振り替えれば犬がとびかかってくるまさにその瞬間…
銃を抜いても間に合わない。
ジル…助けてくれ……………
クリスの想い虚しく、距離は一瞬にして縮まる。あと1秒もないだろう。
グッバイジル…みんな…クレア…
『スタァンッ!』
ハッと目を覚ます。犬は自分の目の前で横たわっている。
『クリス!こっちだ!』
隊長だ。自分を助けてくれたんだ。
あぁ……ありがとう…
チームメンバーは全て揃い、走った。
ウェスカーの指示によれば、森にある洋館に向かうらしい。
ただひたすら、みな自分の命を最優先して、走りながらも銃を犬に撃った。無数の影が近づくなか、洋館が見えてきた。
ジルもマガジンを装填し、みなのように後方を撃った。
バリーのパイソンが火を吹き、一番近くにいた犬をなぎ倒す。
洋館まで、あと200m。隊員は最後の力を振り絞る。木造のドアが見えてきた。
『神様…どうかドアが開いていますように…』
『飛び込め!』
クリスの声。バァンッとドアを押し開ける。鍵はかかっていなかった。
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