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酒場にて
「疲れた……」
ようやく街に辿り着いた僕は、ため息と共にそう呟いた。
あの後、どうにか森から抜ける道を見つけたとはいえ、とっくに日が暮れている。疲れて当たり前だ。
唯一の救いといえば、彷徨っている途中にリゼールの木を見つけられたことか。
「早く酒場に行かないとな……」
酒場とは当然酒を酌み交わすところだが、僕のような仕事をしている人間と依頼人を仲介してくれる場所でもある。
僕は背中に背負ったリゼールの枝の重みを感じながら、酒場の扉をくぐった。
「いらっしゃい――っと、シュヴァーリじゃねえか、随分と遅かったな」
店内に入るなり、マスターに声をかけられる。
「ちょっと色々あってさ……コーヒーもらえる?」
僕はまだ未成年なので、酒は飲めない。いや、一度マスターに勧められて飲んだことがあるのだが、その美味しさが理解できなかった。
マスターがコーヒーを煎れてくれるのをぼんやりと眺める。
『今日、仕事でな――』
『どっちが先に酔い潰れるか、勝負しようじゃねえか!』
『ミゼラさんとこの息子が、流行り病で亡くなったらしいぞ』
『どうだ?ポーカーでもやらんか?』
「……相変わらず、賑わってるなあ」
「ああ、大繁盛だ。――そら、コーヒー」
と、マスターの声と共にコーヒーが置かれた。
「ありがとう」
お礼を口にして、一口飲む。――うん、相変わらず美味しい。
「で?シュヴァーリ、何があったんだ、やけに嬉しそうじゃねえか」
――と、マスターが意外なことを言った。
「え……僕、嬉しそう?」そんなつもりはなかったんだけど……
「馬鹿野郎、ニヤケ面して何言ってやがる」
言われて、自分の頬に触れてみる。……うわ、ホントにニヤケてる。
「やれやれ、気付いてないとはな、よっぽど浮かれてたと見える。柄にもねえ」
マスターの言葉に苦笑する。確かに僕は、柄にもなく浮かれてるらしい。
「まあ、ちょっと色々あって、さ」
とはいえ、事細かに話す気はないので言葉を濁しておく。
マスターもそれがわかっているのか、
「そうか」
とだけ頷いて会話を打ち切った。
――さて、藪蛇突く前にさっさと帰ろう。
そうして僕は、リゼールを渡して酒場を後にした。
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