攻防

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「て、撤退だ!撤退しろ!」 これ以上の戦闘は無理だと判断したのだろう。現時点での敵の残存数はたったの3人。1人はトラックの運転席に、2人は荷物庫に乗り込んだ。 エンジンをかけ、アクセルを力いっぱい踏み付ける。大量の排気ガスを噴出しながらトラックが発進した。 「しまった…!」 ダァン!!ダァン!!ダァン!! 駆け付けた本田が拳銃を連射するが、間に合わない。 ハイスピードで走り去るトラックの背を見送る事しか出来なかった。 「逃がしてしまいましたか…。」 背後から坪内が歩み寄ってくる。このまま逃がせば増援を呼ばれてしまうだろう。そうなれば今度こそ本部の場所を見つけ出される可能性が一層高くなる。 「本部に戻って車を!追い掛けるわよ!」 それだけは絶対に回避しなければならない事態だ。本田の表情に焦りの色が浮かぶ。 しかし、 「何を慌てているんです?大丈夫ですよ。」 坪内はまるで対極。余裕としか言えない様子だ。 トラックの事を魚をくわえて逃げて行く野良猫程度にしか思っていないに違いない。 「でもこのままじゃ…。」 「心配ございませんよ。私達はここで待機していましょう。」 「畜生…!たった4人に拠点を制圧されるとは…!」 トラックの運転席。ここには一刻も早く逃げ出そうと無我夢中でハンドルを握っている男がいた。 だが、次の瞬間。 「……ッ!??な、何だ!?」 突然ハンドル操作が効かなくなる。同時にフロントガラスから見える景色が激しく回転し始めた。 スピンしている。 トラックはスピンしたまま軌道を大きく反らし、 ゴシャッッッ!!! 頭から廃屋へと激突した。 衝撃で運転席、及び運転手は一瞬にしてスクラップ。荷物庫内の2人はどうなっているのか見当もつかない。更にはガソリンが漏れ出していた。 「…逃がしませんよ。」 拠点に襲撃にかかる際に身を隠していた廃屋の2階。そこにはスナイパーライフルを両手に構えた木村が不敵な笑みを零していた。 片目を覗かせるスコープには廃屋に突っ込んだトラックが拡大され、しっかりと映し出されていた。 木村がトラックのタイヤを狙撃したのだ。 ジャキッ スナイパーライフルに新たな弾丸をリロードする。そして漏れるガソリンに狙いを定め、撃った。 刹那 ズドォォォォォン!!!! 轟音が、響き渡った。
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