祝賀会

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大浴場 天然温泉に浸かり疲労と汚れを洗い流した華里奈はタオルを体に巻き脱衣所へと上がった。 「…あ、織田さん?」 その時、丁度脱衣所へ入って来のであろう。ドアの前にいる舞と目があった。 「…椎羅木か。」 「どうも…えっと…。」 話し掛けたは良いが話題が見つからない。 「ど、どうですか?湯加減の方は…。」 …咄嗟に考えたため妙な切り出し方をしてしまった。 「……まあまあだが?」 「あ、そうですか…。あははは…。」 何やってんだろ…私…。 「それと私を呼ぶときは華里奈で良い。苗字で呼ばれるのは好きじゃないから。」 「は、はい…。分かりました…。」 「もう1つ。お前は私より年上の筈。わざわざ敬語で話す必要はないだろう?」 「す、すみませ……いや、ごめんね…。」 うああああ!!私何やってんの!?この恥ずかしさは一体何!!? 「…1つ聞いていいか?」 華里奈は改まったような口調で言った。 「何です…じゃなかった!な、何?」 しどろもどろ。 「…椎羅木って、どんな奴だ?」 「へ?私?」 「違う。椎羅木 守。弟の方だ。」 思えば椎羅木では姉と弟のどちらを指しているのか非常に分かりにくい。下の名前で呼ぶべきか…。 「どんな奴って……う~ん…。……気が短くて、言い出したら聞かない一直線馬鹿みたいなところもあるかな…。」 「…成る程。」 今頃守は盛大なくしゃみをかましているだろう。 そんな会話をしているうちに華里奈は着替えを終え、構造図(改訂・2005年版)を右手に、刀を左手に脱衣所のドアへと歩き出した。 「…華里奈さん。」 ドアノブを掴む寸前に舞が口を開く。 「弟の事…よろしくお願いしますね。」 「…。」 余程、心配なのだろう。 無鉄砲な弟の事が。 たった1人の家族の事が。 「心配することはない。私がついている以上、死なせはしない。」 死なせはしない。保証も根拠も無い言葉だが、今の舞には必要な言葉だ。 それだけ言い残し、華里奈は脱衣所から去って行った。
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