最終関門

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「守!」 背後からよく聞き慣れた声が聞こえる。 舞だ。病棟区から来たのだろう、白衣を身に纏ったままの格好だ。 「聞いたよ、試験合格したって!」 「……まぁな。」 わざわざそれを言うために会いにきたのか…。いや、この広い本部の中でそれは難しい。単なる偶然か。 「これであんたも………守?」 「何だよ?」 活気の有り余る声から突然心配そうな声へと変化した。何だって言うんだ…一体。 「……顔色…悪いみたいだから…。」 「顔色?」 医学部だった舞が言っているのだ。この発言に偽りは無い筈。 だとしたら…風邪か? 額に手を当てて温度を計るためポケットに突っ込んでいた右手を出した。 その時、 「守!その右手…!」 「右手?」 顔色の次は右手か。今度は何なんだ。 そう思いながら右手に視線を移す。 「…って…何だこれ…。」 右手のそれを見た途端、冷汗が体中からどっと噴き出した。 べっとりと……血が付着している。 「ちょっと見せて!」 舞はすぐさま守の右手を掴み、自らの目前へ引き寄せた。 病棟区に配属を申し出てから半年。何百人という戦闘員の怪我の手当をしてきたのだ。血など慣れっこなのだろう。 しかし、この血は何だ? 痛みは無い。というより怪我をした覚えはない。 だとしたら…返り血? 最後に囚人を撃ち殺す際、拳銃を口に捩込み至近距離で発砲した。そして発砲した後すぐに手を引っ込めれば良いものを…しばらく硬直してしまった。 その時に流れ出た血液が付着したのだろう。 「傷は無いみたいだけど、一応診…」 「何ともねぇよ。これは俺の血じゃない。」 「え?」 守は舞の両手を振りほどき、右手を引っ込めた。 「洗えば大丈夫だろ。」 そして振り返り歩き出す。 「守!待ちなさい!」 呼び止めようとするも、守に止まる気配はまるでない。 「待ちなさいよ!!………………守…!」 とうとう、その姿すら見えなくなってしまった。 …何が「大丈夫」なの? あんた……今…震えてたのに…。
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