最終関門

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守はトイレへと駆け込み、水道で右手に付着した血液を洗い流していた。 なんとか洗い流せたものの臭いは取れない。 これ程不快な臭いは初めてだ。水洗いでは消えそうにない。 まるで人を殺した事を証明する刻印のようだ。 流しても流しても、しつこく纏わり付いてくる。 水洗いでは駄目だ。諦めよう。 ハンカチを持ち合わせていなかったため服で水を拭き取り、トイレから出た。 ふと思った。 血生臭さを邪険に思っていて良いのだろうか。 これは復讐を成し遂げた証。 何を嫌がる事がある。これは誇りのような物じゃないか…と。 …どんな思考してんだ俺は。 そういえば半年前に訓練を始めて以来、殆ど外に出ていない。今になって考えてみると訓練に打ち込みすぎていた。 あの時は…外出すれば命を狙われるかもしれないという不安があったのだが…。 だが今は自分を狙う者は全くと言っていい程来ていない。もし狙われたとしても撃退できる自信がある。 念のため自室から拳銃を二丁持ち出し、ホルスターに入れて腰に下げて持っていく事にした。ジャケットを着れば周囲からは見えないだろう。 オカマ・バー『ジョディのおうち』を通過し、外へと出た。   「寒っ!!」 地下に篭り放しだったため忘れていたが今は12月。季節は冬。 薄いTシャツに薄いジャケット。下半身はジーパンのみ。防寒対策のカケラも無いこの服装での外出は…うん、寒い。 更にはいつの間にか日が沈み、真っ暗な夜へとなっている。吐息が凄まじく白い。 しかし久しぶりの外だ。戻る気も起きない。このまま行ってみる事にした。 本部の周囲の路地を少しぶらつくだけだ。大丈夫だろう。 守は単調なペースで歩きだし、1つ目の曲がり角を曲がろうとした、その時。 ドンッ! 「うわっと!」 何者かにぶつかった。 「おっと、悪い。」 相手は中年のガタイの良い男性だ。守にぶつかられてもビクともしていない。 「あ、いや、こちらこそ…。」 「いやいや、俺の不注意だよ。それより君…ジョディのおうちっつー店知らないか?」 「へ?」 あの店の客か…。 ここの路地は迷路のように入り組んでいる。おそらく迷ってしまったのだろう。 「すぐそこにありますけど…。」 「え?そこ?サンキューな、坊主。」 場所を教えると、男は足早にジョディのおうちへと向かった。 「…やっと見つけたぜ……。本部を…。」
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