14年間

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  椎羅木……またそれか。 「ああ……知ってるぜ。」 聞き覚えがあるかだと? 忘れるわけがない。 「……じゃあ…。」 「じゃあ…」か。更なる質問をぶつけられるという事が嫌でも分かった。 どうやら最初から質問を1つで終わらせる気は無かったようだ。 「椎羅木 綾子を…ご存知ですか?」 「…ああ。」 綾子…この名もよく知っている。 「それで、どのような関係でした?」 「……ちょっと待ってくれ。何故そんな事を聞くんだ?」 先程からの赤の他人が知る筈ない質問ばかり。 何故こんな事を知っている?何者だ?こいつは。 「こっちからも質問だ。……君は誰だ?」 バーで会ったものの、まだ名前を聞かされていない。 「私の事は…あなたもよく知ってる筈です。」 返って来たのは期待とは掛け離れた、酷く理解し難い返答。段々と苛々が募って来た。 「知るわけないだろーに……。君とは今日初めて会った筈だが?」 「初めてなんかじゃありません!分からないんですか!?私が!!」 苛々が募っているのはこの子も同じらしい。 勝手に感情を高ぶらされた処で、こちらとしては困るのだが…。 「知らないと言ってるだろ!何なんだ君は!?」 ついこちらも怒鳴ってしまう。初対面の筈の人間に、自分を知らないか?などと聞かれるのは生まれて初めてだ。からかっているのか? だが次の言葉を聞いた途端………この上ない後悔をする事になる。 「私は……舞です。」 「……何?」 舞………舞…?………………まさか…。 「あなたの娘の、椎羅木 舞ですよ!!」 舞の目から……一粒の涙が零れる。 その涙に込められた感情は…悲しみか、怒りか……別の何かか…。 ただ…酷く切なかったのは確かだった。
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