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12月23日
ここは牢獄区の奥に設置された、言わば人殺しに慣れるための訓練を行う…あの部屋だ。
………ドサッ…
部屋中に冷たく響く、人が倒れる音。
囚人が頭部を撃ち抜かれ、死亡したのだ。
「……ハァッ…ハァッ…ハァッ…。」
続いて息切れが単調に響く。
両手で握られた一丁の拳銃を小刻みに震わせて棒立ちになっている…夏美。
「ハァッ…ハァッ…ハァッ…ぅッ…!……ッ……ハァッ…ハァッ…ハァッ…。」
人を撃つ度に夏美を襲う、止まらない息切れと吐き気。
滝のように流れる汗と、涙。
トラウマにトラウマが重なり、16歳の少女にはとても背負い切れない程の精神的苦痛へと変貌を遂げていた。
食欲を失い栄養摂取もままならないその体は痩せ細っている。
囚人に開けられた弾痕から滴り落ち、床を伝っていく…赤黒い血液。
「ハッ…ハッ…ハッ…ハッ…ハッ……あ…!…あぁ…あああ…!」
膝がガクガクと揺れ、力が一気に抜けていく。
そして自重を支えられなくなり、その場に座り込んだ。
「ああッ……あぁあッぁああ…!」
大きく開かれた口から声にならない声が漏れる。
吐き気はやがて胃が捻れるような痛みへと変わった。
その姿を部屋の入口から、腕を組んで眺めている人物…本田が。
夏美の人殺しに対するトラウマは改善されるどころか、日を増すごとに悪化している。
「…仕方ないわね。」
この状況を打開するためには…1つしかない。
本田は振り返り、部屋を後にした。
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