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とりあえず玄関で話していても仕方がない。自室へ夏美を招き入れ、ソファーに座らせた。
大豆が早速夏美に飛び付いていたが、夏美は石のように固まって撫でる気配も…動く気配すらない。しばらくすると大豆は床に降り、別の部屋へ歩いて行ってしまった。
「……あたし…やっぱり行かなきゃダメ…?」
静寂に包まれる中、夏美の涙声だけが響き渡った。
「夏美…。」
「あたし…まだ全然ダメなのに……何で任務なんて請けなくちゃいけないの…?」
ポタポタと涙が落ち、服に次々と染み込んでゆく。
「無理なのに…!絶対無理なのに…!あたしなんかが行ったって…ダメなのに…!」
銃を握る恐怖。
殺されるかもしれない恐怖。
人を殺す恐怖。
それらが複雑に入り混じり、重くのしかかる。
「もうやだ…戦闘員なんて……ならなければ良かった…。」
その時、
コン…
「……え…。」
目の前に置かれた、1本の缶ビール。
翔が新たに冷蔵庫から取り出したのだ。
「とりあえず飲みなよー。元気出してー。」
そう言って自分の缶ビールに口を付ける翔。
「翔君…まだ未成年…だよね…。」
「いーから、いーからー。ビール飲めば元気出るよー。」
「……そうかな…。」
夏美は促されるがままに缶ビールを掴み…1口。
「……はは…。」
思わず零れる、小さな笑み。
「おいしいね……これ。」
やっと、笑ってくれた。
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