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この後も夏美は缶ビールを飲み続けた。
明日降り懸かるであろう悪夢を忘れようとするかのように。
少女のやけ酒など見ていて良いものではないが、止めるつもりはない
気のゆくまで…安らぎを与えてあげたかった。
「…ん?何それー?」
その時、夏美のポケットから何かが零れ落ちた。
白黒のシマ模様の小さな丸い物体が。
「あ、これ?ひまわりの種だよ。」
夏美は種を1つ摘み上げ言った。酒の影響で気分が高揚してきているようだ。声に明るさが燈っている。
「ひまわりー?何でそんなの持ってんのー?」
「うーん…ただ持ってたいだけかな?あたしね、ひまわりの花が大好きなの!」
ほろ酔いからか、夏美の顔が僅かに赤い。そして満面の笑みで話し始めた。
「あたしの名前って花村 夏美でしょ?だから「花」と「夏」の字をとって……ほら、夏の花って言ったら、ひまわりだから…えっと……。」
意味は充分伝わっているが自分の説明に自信が持てないようだ。ひどくおどおどしている。
「じゃあ夏になったら育てよー。植木鉢買っとくよー。」
「ほ、ほんと!?」
「給料たんまり貯めとくからねー。まっかせてー。」
全てを忘れてしまうような笑顔。
いつの間にか俺は、見とれていた。
やっぱり、間違ってる。
夏美を戦場に連れ出すなんて、間違ってる。
夏美は人を殺しちゃいけない人間。
殺されちゃいけない人間なんだ。
だから決めた。
俺が夏美を守る。
誰が何と言おうと、肩書が戦闘員だろうと関係ない。
俺にとって大切な人ができた今、取る道は1つだけ。
絶対に…貫き通す…!
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