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「問題ねぇよ婆ちゃん。もう1回頼むぜ」
そう言って俺はババチャリを引いて坂道を登り始めた。
チッ、やっぱいてぇな畜生……。
「無理するでない心一!そんな足じゃまともにペダルなんぞ漕げんじゃろうが!ちゃんと治療してからまた挑戦すれば…」
「それじゃあ遅いんだよ!」
俺は婆ちゃんの話を遮って、そう怒鳴った。
「……夏は、明日にはもう引っ越しちまうんだよ。今やらなきゃ駄目なんだよ!」
「じゃがその足では…」
「うるせぇ!黙ってろババア!!」
俺は婆ちゃんに心にもない暴言を吐いて、痛みを堪えて坂道を上がっていった。
ヤベェ……痛みで視界がボヤけてきた………。
坂の頂上が遠い………アレ?
そう思った瞬間俺は自然と力が抜け、地面に倒れちまった。
クソッ、駄目なのか?根性見せろよ俺……!
………駄目だ。力が入んねぇや………。
俺の心が折れかけたその時、何が生暖かい物が俺の頬を舐めた。
俺がゆっくりと目を開けると、ナナが俺の頬をペロペロと舐めていた。
「ナナ……」
俺は呟くようにそう言って、ナナの頭を撫でた。
すると、
「大丈夫心ちゃん!?」
突然雨音が俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
その声に反応して俺が上を見上げると、息を切らせながら心配そうに俺を見下ろす雨音の姿があった。
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