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数分後、結局好奇心に負けた俺は懐中電灯片手に倉庫の前に立っていた。
《さてと、開けるかな。でもいきなりタヌキが飛び出して来ても嫌だな》
そう思った俺は一瞬躊躇したが、すぐに気持ちを切り替えて扉を開いた。
「………汚ねぇな」
俺はそう呟いた。
だって懐中電灯で照らした倉庫の中は、本当に汚かったのだから。
「てかタヌキ出てこねぇな。やっぱ俺の見間違いか?」
そう言って俺が懐中電灯であちこちを照らしていると、奥の方に見覚えのある物を見つけた。
「あっ、アレって確か婆ちゃんの使ってたママチャリじゃん」
倉庫の奥にあったのは、婆ちゃんが使っていた赤いママチャリだった。
なんとなくだが、小さい時に一度だけこっちに遊びに来た時に、後ろに乗せてもらった記憶がある。
何だか急に懐かしくなった俺は、わざわざ他の荷物を退けてまでそのママチャリを引っ張り出した。
「かなり錆びついてんな。でもまだ何とか乗れそうだな」
そう言って俺はしゃがんで、ペダルを手でクルクルと回した。
この時俺の脳裏に、あるアイデアが閃いちまった。
《待てよ………このママチャリで頑張れば、東京まで帰れるんじゃねーか?》
俺は無謀にも、そんな事を思いついちまった。
東京に帰っても、バイトしながら何とか暮らしゃいい。
祥に頼めばしばらくは泊めてくれるだろうし。
そんな事を考えているうちに、俺の中でこの無謀なアイデアは次第に現実味を帯びてきた。
《金は本当にねぇから途中で電車に乗るとかは無理だ。てかまず駅なんて見当たらないし。でもありったけの食料を積めば、ママチャリでも時間はかかるけど東京にたどり着けるはずだ!》
そう思った瞬間、俺の目に微かな希望の光が宿った。
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