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「ハァ……ハァ……」
「もう止めんか心一!いくらやっても無理じゃと言うとるじゃろうが!」
俺は婆ちゃんを無視してババチャリを押して坂道を上っていった。
今俺がいるのは、夏の転勤を止める願いを叶えた時に使った長い坂のある道。
もう数えきれないくらい下っては上ってを繰り返しているが、やっぱり願いは叶わない。
……こんなに雨音の幸せを願ってるのに、俺は何の役にも立てやしねぇ。
でも、他に何をしたらいいのかわからない。
俺がふと気がつくと、もう夜が開けて朝になっていた。
そう………雨音にとっての最後の朝が来てしまった。
「……もうええじゃろ心一?お前はようやったわぃ」
「良くやった?何も出来てねぇじゃねぇかよ!これじゃあただ何時間もチャリ漕いだだけじゃねぇかよ!!」
俺はそう叫んで、堪えきれずに涙が溢れてきた。
「……心一よ。ちゃんとできる事はあるぞぃ」
「……俺に何ができるってんだよ?」
「………あの子の側にいてやるんじゃよ。亡くなる時に近くに人がいるのといないのとでは全然違うんじゃよ。アタシも一応死んだ身じゃからのぅ」
婆ちゃんのその言葉で、俺は病室で沢山の管に繋がれながら最後の時を迎えようとしていた婆ちゃんの姿を思い出した。
……雨音も、最後にはあんな姿になってしまうのだろうか?
そう考えるだけで、俺の中にどうしようもない感情が止めどなく沸き上がってきた。
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