愛しい人

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「………やっぱどうしても無理なのか?」 「……スマンが、アタシの力ではどうにもできんのじゃ」 「………そうか」 俺はそう呟いて、願いを叶えるのを諦めて家に向かってババチャリを漕ぎ始めた。 何も出来ない俺だけど、婆ちゃんが言ったように『側にいるだけ』で少しでも雨音の心の支えになれるのなら、俺はそうしようと思った。 一旦家に帰り、深夜に飛び出した時の寝巻き姿のままだった俺は、大した私服も持ってないのでいつもの制服に袖を通した。 その時、 コンコン 部屋をノックする音が聞こえてきた。 「何だよ?」 「雨音ちゃんの様子はどうだったの?」 「………ただの貧血だってよ」 俺は少し考えてからお袋にそう言った。 『今日中に亡くなる』なんて、口が裂けても言いたくなかった。 「あらそう。それと、榎本先生から『早く学校に来なさい』って電話があったわよ」 「夏から?」 そう呟いて俺は部屋の時計を見た。 時刻は午前10時。俺はそんなに長い間ババチャリを漕いでたんだな……。 つーか、今は学校とか行ってる場合じゃねーだろ。夏も官九郎もまさか雨音の病気の本当の事を知らないのか? そう思った俺は、病院に行く前に一度学校に寄る事にした。
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