愛しい人

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俺が雨音の座っている車椅子を押しながらグラウンドに出た時、適当に停めてあるババチャリが目に入ってきた。 ババチャリに触れていないから今は婆ちゃんの姿は見えないが、俺はババチャリの方を向いて『最後まで雨音の側にいる』という決意を込めて静かに頷いた。 「あー♪いい天気だね♪気持ちいいー♪」 雨音の希望通りに、田んぼしか見当たらない田舎道を散歩していると、雨音がそう言って両手をぐっと天に向かって伸ばした。 「そうか?クソ暑いだけじゃねぇかよ」 「暑いのがいいんじゃん♪わかってないなぁ心ちゃんは♪」 そう言って雨音は、楽しそうに笑った。 「今日は村中回るから、覚悟してよ皆~♪」 「わかったわよお嬢様」 夏がそう言って、やれやれといった表情をした。 その時、 「おーい雨音!ザリガニじゃ!ザリガニが釣れたのじゃー!」 官九郎がそう言って、釣糸の先にザリガニをぶら下げながら駆け寄ってきた。 何やってんだよアイツは……。 「わぁー♪大物だね官ちゃん♪」 「そうじゃろそうじゃろ?ほら!どうじゃ心一?」 「うわっ!そんな気持ち悪いもん近づけんなよ官九郎!」 急に官九郎に糸にぶら下がったままのザリガニを顔の前に持ってこられた俺は、体全体でザリガニを拒否した。
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