愛しい人

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「……わっ、わりぃわりぃ!なんか俺の勘違いみてぇだ」 俺は咄嗟にそう言って、無理矢理笑って見せた。 「……ゴメンね」 「何で謝んだよ。だから俺の勘違いなんだって!ほらっ、行くぞ!」 そう言って俺は車椅子を思いっきり押して走り出した。 ぬるい風が体全体に当たってくる。 「あはは♪風が気持ちいいー♪」 「そんじゃあもっとスピード出すぞ!振り落とされんなよ!」 そう言って俺は、さらにスピードを上げた。 俺の事は、いつ忘れてしまうのだろう……。 もし最後まで忘れないでいてくれても、今日が終われば雨音は………。 「あっ!心ちゃん!」 「へっ!?なっ、何だ?」 考え事をしていた俺は、慌ててそう答えた。 「雨が降って来ちゃったよ」 「マジでか?」 そう言って俺が曇り空を見上げると、雨粒がポツリと俺の頬に当たった。 「遂に降ってきてしまったのぅ」 「てか心一!アンタいきなりテンション上げて走り出すんじゃないわよ!」 そう言われて振り向くと、そこには麦わら帽子のツバを持ちながら空を見上げる官九郎と、息を切らしている夏の姿があった。
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