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「俺が勝つまで辞めねぇからな!さぁ!もう一勝負だ!」
トランプを配り終わった俺は、トランプを扇のように広げながらそう言った。
「やれやれ、まだまだガキねぇ」
「ホントホント♪」
夏に共感したように雨音はそう言うと、配られたトランプを扇のように広げた。
そして、何故かそのまま硬直してしまった。
「何やってるんじゃ雨音?」
「同じ数字が全然ないのか?」
俺と官九郎がそう尋ねると、雨音は困ったように頭をポリポリと掻きながら口を開いた。
「え~っと……ババ抜きってどうやるんだっけ?」
『……えっ?』
雨音の言葉に、俺達は思わず声を漏らした。
……まさか、忘れちまったのか?
さっきまで普通に出来てたのに………。
「……ゴメンね」
「あっ、謝る必要なんてないわよ雨音!他のやればいいじゃない。どうせババ抜きしても、心一が負けるだけだし」
そう言って夏はニヤリと笑って、俺の方を見た。
「うるせぇよ夏!じゃあアレだ!七並べで勝負だ!七並べわかるか雨音?」
「うん♪わかるよ♪」
「よっしゃ!そんじゃあ配り直すぞ!」
そう言って俺は改めてトランプを配り始めた。
内心、俺は泣きそうなくらい辛かった。
さっきまでやってたババ抜きをいきなり忘れてしまったように、そのうち俺が何気なく話しかけたら、『誰?』と聞き返されてしまうのだろうか……。
そう考えただけで、頭の中は雨音との思い出で一杯になっていた。
忘れて欲しくない。
例えいなくなっても、俺の事を覚えていて欲しい。
そんな事を考えている間に、俺は七並べでも惨敗していた。
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