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「……ゴメン。なぁ婆ちゃん、チャリ漕いでいいか?」
「じゃから、いくら漕いでも願いは…」
「わかってる」
俺は婆ちゃんの言葉を遮ってそう言った。
「……じっとしてるのが嫌なだけだ。まだ願いを叶えて欲しいなんて思ってないよ」
「それならば早く雨音ちゃんの所に戻ってやるべきなんじゃないかの?」
「……今側にいたって、俺は手を握ってやる事しかできない。病院に戻る前に少し考えたいんだよ。自分なりに“答え”を見つけたいんだ」
俺はそう言って、ババチャリを漕ぎ出した。
行く宛もなくババチャリを漕ぎながら、すっかり暗くなった空を見上げた。
暗い中でよく目を凝らして腕時計を見ると、時刻はもう午後8時。
雨音の命は、後たったの4時間になっちまった………。
……未だに雨音に何ができるのか、何も思い浮かばない。
手を握ってやる?
側にいてやる?
やっぱりそんな事しかできないのか俺は?
気がつくと俺は、病院に戻ってきていた。
「……自分なりの答えは見つかったのかの?」
不意に、気をきかせてずっと黙ってくれていた婆ちゃんが話しかけてきた。
「……いや、結局何にもわからなかった。時間を無駄にしただけだ」
そう呟いた俺に、婆ちゃんは優しい口調で口を開いた。
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