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「……アナタのお名前は?」
雨音は虚ろな目のままそう言って、首を傾げた。
……おそらく心の何処かで覚悟してたんだろう。俺は自分でも驚くぐらいに冷静でいられた。
「……俺は心一ってんだ。『心(ココロ)』に『一(イチ)』って書いて心一だ」
「心一君………いい名前だね」
そう言って雨音は、少しだけ微笑んだ。
でもその笑顔はほぼ無表情に近い。
多分『笑う』っていう感情も消えてきてるんだろう……。
「………なぁ、手握ってもいいか?」
「?………いいよ?」
雨音は少し間を置いてから、手を握る事を許してくれた。
俺は雨音のベッドの横のパイプ椅子に座り、雨音の左手を両手で包み込むようにして握った。
人の温もりを伝える。
これが俺に出来る精一杯の事。
……でも、逆に雨音の温もりが俺に伝わってくる。
俺が伝えなきゃいけねぇのに………。
「心一君の手、とても温かいね」
雨音のその言葉に、俺は伏せていた顔を上げた。
「……馬鹿。お前だってスゲー温かいよ………」
俺がそう言うと、雨音はまた無表情に近い微笑みを見せてくれた。
注意して見ないと気づかない程の僅かな微笑みなのに、その微笑みはとても優しく感じた……。
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