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窓枠に置いている手の甲に、水滴が何滴か落ちた。
最初は雨漏りかと思ったが、その水滴が俺自身の涙だって事はすぐにわかった。
あれだけ泣いたのに、まだ涙が出んのかよ………。
「……なぁ雨音、俺はどうすりゃいいんだ?」
窓を開けて雨空を見上げて雨音に尋ねても、帰ってくるのは雨の音だけ。
まぁ、当然だけどな………。
数十分後。
俺は制服に着替えて玄関で靴紐を結んでいた。
……やっぱり通夜に行こう。最後なんだから………。
そう決めた俺は、傘を持って外に出た。
傘をさしてババチャリの元へ歩み寄り、傘を片手にハンドルを握った。
「……大丈夫かの心一?」
ババチャリに触れた瞬間に現れた婆ちゃんが、心配そうな顔で俺にそう声をかけてきた。
「大丈夫………じゃねぇかな。でも心配ねぇよ。最後のお別れくらいちゃんとできっから」
そう言って俺は、ババチャリを押して家の門へと向かった。
門に向かう途中で、犬小屋からナナが顔を出してきた。
「ワンワンッ!」
「わりぃなナナ。お前の散歩じゃないんだよ」
俺はナナにそう言って、門の辺りでババチャリに股がってペダルを漕ぎ出した。
走り去っていく主人の姿を、ナナはずぶ濡れになりながらお座りして、何処か悲しげに眺めていた。
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