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「待たせてゴメンな婆ちゃん」
俺はそう言いながらババチャリに歩み寄った。
他から見れば、自転車に話しかけている変人なんだろうな。
だけど、ババチャリに婆ちゃんの姿は何処にもない。
《アレ?どっか行ってんのか?これじゃあ俺、本当に自転車に話しかけてる変人じゃん……》
そう思いながら俺は自転車に触れた。
その時、
「今何時じゃと思っとるんじゃ馬鹿者!!」
「うわぁ!!」
突然目の前に現れた婆ちゃんにそう怒鳴られ、俺は驚いて思わず大声を出しちまった。
「どっ、何処にいたんだよ婆ちゃん!?」
「ずっとここにおったわぃ。アタシはこの自転車から離れられんのじゃからの」
「でもさっきまでいなかったじゃん!」
「あぁ、心一はこの自転車に触れてる間しかアタシの姿は見えないんじゃよ」
婆ちゃんは俺にそう説明して、お茶をすすった。
「さて、帰るぞぃ」
「う~ん……わかった」
俺はなるべく人気のない道に移動してから、そう言って自転車を漕ぎ始めた。
《確か自転車を思いっきり漕ぎながら『田舎に帰りたい』って思うんだよな……》
俺は昨日の婆ちゃんの説明を思い出して、願いを頭の中で繰り返した。
田舎に帰りたい…
田舎に帰りたい…
田舎に帰りたい…
「なぁ婆ちゃん、帰れないけど?」
一向に帰れる気配がないので、俺は婆ちゃんにそう尋ねた。
「それはお前が本気で望んでないからじゃ!中途半端な気持ちでは、願いを叶える事は出来ん!」
「んな事言われたって、俺本当は帰りたくねーもんよ」
俺が婆ちゃんにそう言うと、婆ちゃんは呆れた溜め息をついた。
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