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「ところでこの人形はどうしたんじゃ?神様が宿っておるが」
婆ちゃんはカゴの中の人形を見ながら俺に尋ねてきた。
予想はしてたが、婆ちゃんには唯菜の姿が見えるらしい。
「いやっ、えーっと…その人形は……」
俺はそう呟きながら頭を悩ませた。
婆ちゃんには下手な嘘は通じないだろう。
だが、真実を言えば怒鳴られちまう。
そんな事を考えていたら、俺の頭に名案が浮かんだ。
「なぁ婆ちゃん!その人形の持ち主の所に行く事ってできるか?その人形の神様は、両親の元に帰りたいんだってよ」
「心一がちゃんと願いながら自転車を漕げば勿論その願いは叶えられるぞぃ」
「なら頼むよ!行くぞ婆ちゃん!」
俺はそう言って、ババチャリを勢いよく漕ぎ出した。
《良かった。これで嘘つき呼ばわりはされなくて済みそうだ。》
俺はそう思って安心した。
だが………
「ハァ…ハァ…おいババア!どんだけ漕げば願い叶えてくれんだよ!?」
俺はかなりの距離を精一杯漕いだのに願いが叶えられない事に苛立って、思わず婆ちゃんにそう叫んだ。
「まぁ……今のままじゃあ叶えられんのぉ」
「何でだよ!?こんなに頑張って漕いでるじゃねーか!」
「思いが足りんのじゃよ。今のお前の頭には、嘘をついた罪悪感から解放されようとする思いの方が強い。本気で人形の神様の幸せなど願っていないじゃろうが!!そんなんで願いを叶えて貰おうなど百年早いわ馬鹿者!!」
嘘をついた事も全てお見通しだった婆ちゃんは、俺にそう怒鳴った。
見事心の中を見透かされた俺は反論する事が出来ず、悔しくてハンドルをギュッと握った。
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