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8月に入って最初の土曜日の夕方。
俺はついこの前やっと家に取り付けられた電話(つっても、古い黒電話だが)で懐かしい奴と電話していた。
電話の相手は、東京での幼なじみである矢野祥だ。
「いやぁ、まさか電話がくるとは思ってなかったぜ心一!」
「ケータイ解約する前にお前の番号メモっといてよかったぜホント」
電話越しに祥にそう言って、俺は左手に持っているメモを見つめた。
「また声が聞けて嬉しいぜ心一!お前も久々に親友の声が聞けて嬉しいか?」
「あぁ……まあな」
「……なんかお前、素直になったな」
「別にそんなんじゃねぇよ」
そう言って俺は、少し照れながら笑った。
「なぁ祥、ちょっと相談があるんだけど……」
「何だよ?何でも言ってみろ!」
祥にそう言われて、俺は少し恥ずかしかったけど口を開いた。
「あのさぁ……相手が笑ってくれるだけで何か嬉しくて、心臓のドキドキが止まんない。この気持ちって何だと思う?」
「そりゃあお前『恋』に決まってんだろ」
「やっぱりか……」
俺はそう言って、受話器越しに溜め息をついた。
そう。この前のハプニングで俺は完璧に自覚してしまった。
俺は雨音の事が好きなんだ。
「しっかし全然恋愛に興味なかった心一が恋に落ちるとはなぁ。どんな子か見てみたいもんだぜ!」
「からかうなよ祥。でも俺ってこの通り性格ひねくれてんじゃん?だからイマイチ何をどうしたらいいかわかんねーんだよ」
「まぁ、自分で性格自覚しただけ成長したんじゃねーの?ハハハ!」
そう言って祥は、俺のこの複雑な気持ちなどそっちのけで笑った。
くそっ、相談する相手間違えたな……。
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