星を仰いで

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 思い返してみても、やはり強い印象のない日であった。  登校時間はきちんと守っていたし、受験勉強だって人並みにこなしていた。  変わらない毎日だと思っていた、否、願っていたに近かったかもしれない。  事実、変わらない毎日なんて存在しない。  小さな差異だから、変化ではないと思い込んでいた。  ああ、違う、本当は知っていたんだ。  いつかは全てが無くなってしまうと。  もとよりこの両手は何も掴んでいなかったのだと。  決して掴めなくても、ずっと眺めていたい星空のように、ただ、日常という夢を見ていただけ。  それさえ失ってしまうことが怖くて、無意識に目を逸らし、星(ゆめ)を見つめていた。  だから、そういう意味で言えば、あの日はまさに変革の日だったんだ。  いつも通りだと信じていた学校が終わり、  いつも通りだと望んでいたバイトも終えて、  いつも通りだと願っていた帰り道に全てが変わった。  あるいは“戻った”のか。  日常(まぼろし)ではなく非日常(げんじつ)に。  その状況を受け止めて、あの日の僕はこう呟いていた。 『終わっちゃった』と。  しかし、真紅の少女はこう言った。 『始まったのよ』と。  うん、その通りだった。
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