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およそ三十畳もの広い和室に、物々しい表情を浮かべた男女が十数名。全員、和服を着込んで正座している。
掛け軸がかけられた壁に背を向ける少女は上座に腰掛けており、向かい側に座る五十代前半であろう初老の男性をその金色(こんじき)の瞳でしっかりと見据えていた。
少女の髪は黒く、絹のように細く長い。未だ十代半ばであろうに、その眼差しは少女の魂の輝きを示すかのように強かった。少女は、ちらりと男性の横に座る同い年くらいの長髪の少年を見る。少年はうつ向いたまま、少女を見ようとはしなかった。それには何処か、意識的なものが見受けられる。
「鬼村(おにむら)から“五封陣(ごほうじん)”を選抜するとおっしゃったのか!?」
少女から見て、右側に座る七十代程の翁が甲高い声を上げた。翁は、少女の向かい側に座る男性を強く睨んでいる。翁の左側に座る六十代程の女性が、無言で翁の行動をたしなめると翁は我に返ったように黙り込んだ。
「“火”の力を持つ術者ならば、宮森(みやもり)にも火狩(かがり)にもいるではありませんか? よりによって、鬼村から選ぶ道理はありません!」
今度は、翁と女性の向かい側──少女から見て左側に座る四十代程であろう女性が叫ぶ。女性は艶やかな黒髪を短く切り揃えていた。
女性の右側で、同年代の男性は大きくため息をつく。
「二人とも少し、落ち着きなさい。……伶一郎(れいいちろう)。二人の意見に反論はありますか?」
少女は向かい側に座る男性を見据えたまま、口を開いたのだった。
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