第5章:1年夏

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吹奏楽の甲子園【普門館】 あの黒い床の、とてつもなく広いステージ。 この場所を目指し、全国の吹奏楽仲間の熱い夏が始まる。 東京の場合は、予選→都大会→全国大会と勝ち進まないと、あの場所へは行けないのだ。 演奏時間は12分。時間が1秒でも過ぎたら失格だ。 過去に何度も、全国大会での名演が、タイムオーバーで失格になってしまったぐらい、時間には相当シビアだ。 その限られた時間の中で、課題曲と自由曲の2曲を演奏しなくてはいけない。 俺達の高校が選んだ曲は【交響的譚詩吹奏楽のための】という課題曲と、【シャカタ音楽によって世界は生まれた】という自由曲だ。 この自由曲の題名[シャカタ]には具体的な意味は無いらしい。 ただ、副題の[音楽によって世界は生まれた]には、ちょっとした意味があるそうだ。 オーストラリアの先住民族たちは、歌を歌う事によって自分達が生まれたと信じているという言い伝えがある。 その話に基づいてこの曲は作られ、この副題が付けられたと、顧問の先生が話していたのを覚えている。 あの頃は、そんな話も受け流してしまっていたが、卒業してから久々に聞いてみたりすると、あの時わからなかった想いを感じ取る事が出来る。 歳を取り、一つの物を生み出す苦労を知ったからだろう。 ふと、俺は良い方に変わっているのか、悪い方に変わってしまったのか、考えてしまった。
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