牧場エリア  ―翔―

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振り向くとおじさんが立っていた。 「あ、あの…【星の思い出】を探してて……。」 「【星の思い出】?……ここには無いと思うがなあ……。」 がくっ…… だが、おじさんは【星の思い出】の情報を持っているわけではない。 「まあ、気が済むまで探してご覧。余計なところを触らんようにな。」 「あ、はい。」 おじさんの許可(?)も、もらったところで、さらに探す。 ……が…… 「……有ったか?……。」 「……無い……。」 結構探したが……やっぱり無い……。 「あきらめるか……。」 和輝が呟く。 「そだな……。」 僕も答えた。 そこへ…… 「あ、兄ちゃんっ!なんでいるのっ!」 (この声は……。) でたっ!会話がすべて絶叫少年! 翔である。 それと恵美と響子……。 「【星の思い出】探しだよ……お前達こそどうしたんだ?」 幾分、ムッとしながら答えた。 疲れたところへ翔の絶叫会話は堪える……。 「これから、ここで牛の出産ビデオの上映会やるのよ。」 と、理恵。 「ついでだから一緒に見ない?」 と、響子。 「どうする?……」 僕と和輝は顔を見合わせた。 「疲れたしなあ。ちょっと休みたいとは思うよな……。」 「……じゃあ……見ていくか……ビデオなら座って観れるだろ……。」 「決まりだな……。」 と、いうわけでみんなでビデオ鑑賞会となってしまった。 本来、家畜の出産は春に行われる。その為、遊びに来る子供達の為に立体ホログラムビデオに撮影しておいて、夏に上映会をするという訳だ。 まったく興味は無かった……が……。 「すごかったねぇ~。」 「迫力ぅ~!」 全員、観終わった後は軽く興奮状態になった。 無理もない、本当に間近で出産を見た様な気持ちになったのだ。 興奮状態の牛が迫ってくる。 耳をつんざく様な鳴き声。 ……etc.……etc.……。 「出産って大仕事なんだね。」 「私、お母さんに産まれた時の事、詳しく聞いてみよ!」 「私も!」 女の子達はキャピキャピと、騒ぎながら先を歩いている。 「すごかったねっ!牛がねっ!生まれる時なんかねっ!……。」 翔も興奮してさっきからしゃべりどうしだ。 翔に生返事を返しながら、僕はぼんやりと考えていた。 (母さんも僕を産む時、大変だったのかなあ…。)
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