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僕はまず右手にあるドアの看板にゆっくりと近づいた。
何だか雲の上を歩いているようで、実感が無い。
やがて、看板の文字が見えて来た。
【星の思い出・牧場エリア】
看板には、ハッキリとそう書いてあった。
「しょ、翔!」
何だか声が裏返って、自分の声じゃないみたいだ。
「何っ? 兄ちゃんっ?」
喘ぐように僕は答えた。
「翔、……よく見つけた……【星の思い出】だよ。……兄ちゃんが探してた。……」
「えっ!本当っ?」
翔も看板が見える位置に来て、看板を読んだ。
「星…の思…い・出…牧・場…エリ…ア……うぉ~っ! 本当だっ!兄ちゃんっ!ヤッタネッ!」
翔は僕より興奮して、大騒ぎを始めた。
「俺が見つけたんだよっ!俺が見つけたんだからねっ!」
「わかってるってば!」
翔の喜び様がスゴ過ぎて、僕は返って冷静だった。
(入ってみようか?……)
やっと見つけたんだ! 入らないでどうする?
そうは思うものの、イマイチ気が引けた。
一応、作業時間中だし……。
「兄ちゃんっ! 入らないのっ?」
翔がけしかけた。
(……どうする?……)
そろそろ戻らないとやばいかもしれない……。
オコズカイガヘラサレルカモシレナイ……。
……でも……
「兄ちゃんっ! 兄ちゃんってばっ!」
翔が腕を引っ張る。
(……ええぃ!こうなったら。……)
入ってしまえ!
僕は決心して、ドアの取っ手に手をかけた。
(……!?……)
鍵がかかっている。
開かない。
「兄ちゃんっ!どうしたのっ?」
翔が不思議そうに聞いた。
「……なんか……開かないんだ。……」
ドアを押したり引いたりしたがびくともしない。
頭の中が?マークでいっぱいになった。
ふいに横にかかっている看板が目に入った。
よくみると、【星の思い出・牧場エリア】の他に小さな文字が書き込まれていた。
「……検索可能時間……平日:午後1時から午後5時……土日祝:午前9時から午後5時ぃ~!」
僕は思わず叫んだ。
そして、へなへなと座り込んでしまった。
「兄ちゃんどうしたのっ!」
と、翔。
「……翔……まだ入れないみたいだ……ここに書いてある……1時からだってさ。……」
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