種子島宇宙港―旅立ち―

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「稜っ!モバイル持ったままよっ!稜っ!」 (しまった!モバイルは持ち込み禁止だっけ…。) 急ぎ足で母の所に戻りながら、僕は滞在案内を頭に浮かべる。 『…人工衛星No.175(衛星名ネバーランド)は20世紀の日本の田舎を忠実に再現した滞在型リゾート施設衛星です。電子機器の持ち込みは厳しく制限されています。』 か……。 (……しばらく会えないんだな……。) 自分の体温で温まっている自分の分身とも言えるモバイルを渡しながら、僕は母の顔を眺めた。 「楽しんでらっしゃい。」 と、母は微笑んで頭をクシャッと掴む。 僕はなんだか急に寂しさが込み上げてきた。 「……うん……。」 ふいに僕の目に涙がにじんでくる。 僕は泣いている事を悟られないように母に背中を向けて叫んだ。 「行って来ますっ!」 そして歯を食いしばると人込みに押されるようにして搭乗ゲートに向かいだす。 (これから本当に一人なんだな…) 搭乗ゲートをくぐり母の姿が見えなくなってから、僕は柱の影でコッソリ涙を拭った。 (しっかりしろ!僕には目的があるんだからな!) 家族連れの旅行客で賑わう搭乗ゲート内で僕はもう一度気合いを入れ直し、それからゆっくりと足でリノリウム床を踏み締めるようにして、人工衛星No.175行きのシャトルが出る出発ゲートに向かった。
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