最終章……早川の真実

36/41
前へ
/445ページ
次へ
  まだ解答編は終わっていない。私には二つ疑問が残っていた。     『よく考えてみろ。俺が弱みを握っていようがいまいが、あの人がその気になれば、俺を潰すなんて簡単な事』     自信満々に見えていた早川は、ギリギリの戦いをしていたと告白する。     『でも……アナタは常に、父を見下ろしていた』   『ははは、内心ヒヤヒヤだったよ。正直ビビってた』     信じられない、早川の本質はともかく、あの時は弱気な素振りは微塵も見えなかった。汗一つかかずに、淡々と父を追い込んでいたのに。     話を聞いていたユカが、突然早川の懐に飛び込んだ。       『くっせ~っ! やっぱりね! ほら見てあおいさん』     スーツを捲り、早川をバンザイさせ……。       !     『ケンちゃんは、ビビりだから』   『うっせ~よ』     剥き出しになったカッターシャツ……脇の下から胸にかけて、濃いシミが。   『早川さん、汗?』   『ふん、冷や汗さ』     父を上から見下ろし、常に優位に立っていたと思っていた。       『だから、お前らには言えなかったんだよ』     父から報復の意欲を奪ったのは、証拠でも体調不安でもないと早川は言う。     『あの人は、負けた経験が無いんだ。敗北感が、意欲を奪うと思ってた』   『それと、私達を騙すのとどういう関係が?』     車に向かい歩きながら、早川は語る。     『完全に裏をかければ。やられたって思うだろ? あとは俺に全てを知られちまった事実が、勝手にあの人を追い込んでくれる』     薄氷を踏む思いの中、それを遂行出来る早川。そもそも次元が違う。     『あおいが、俺を疑わなければ、上手くはいかなかった……だから黙ってたのさ』       車のキーを握ったまま、呆気に取られていた私に、早川は右手を差し出す。     『ユカには言って欲しかったな』   『そりゃダメだ……ユカの中にはあおいがいて、あおいの中にはユカがいる。二人共騙さなきゃ、成功してない』       つまり、ユカが事実を知れば、必ず私に伝わり、早川を疑わなかった……。       『お前ら二人共、演技が下手くそだからよ……さあ、俺が運転しよう』     早川の行動は、自分を疑わせる為。裏を返せば、私とユカの絆を信じていてくれたから。     『ユカにも見せたかったぜ? あの時のあおいの顔』
/445ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5772人が本棚に入れています
本棚に追加