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まだ解答編は終わっていない。私には二つ疑問が残っていた。
『よく考えてみろ。俺が弱みを握っていようがいまいが、あの人がその気になれば、俺を潰すなんて簡単な事』
自信満々に見えていた早川は、ギリギリの戦いをしていたと告白する。
『でも……アナタは常に、父を見下ろしていた』
『ははは、内心ヒヤヒヤだったよ。正直ビビってた』
信じられない、早川の本質はともかく、あの時は弱気な素振りは微塵も見えなかった。汗一つかかずに、淡々と父を追い込んでいたのに。
話を聞いていたユカが、突然早川の懐に飛び込んだ。
『くっせ~っ! やっぱりね! ほら見てあおいさん』
スーツを捲り、早川をバンザイさせ……。
!
『ケンちゃんは、ビビりだから』
『うっせ~よ』
剥き出しになったカッターシャツ……脇の下から胸にかけて、濃いシミが。
『早川さん、汗?』
『ふん、冷や汗さ』
父を上から見下ろし、常に優位に立っていたと思っていた。
『だから、お前らには言えなかったんだよ』
父から報復の意欲を奪ったのは、証拠でも体調不安でもないと早川は言う。
『あの人は、負けた経験が無いんだ。敗北感が、意欲を奪うと思ってた』
『それと、私達を騙すのとどういう関係が?』
車に向かい歩きながら、早川は語る。
『完全に裏をかければ。やられたって思うだろ? あとは俺に全てを知られちまった事実が、勝手にあの人を追い込んでくれる』
薄氷を踏む思いの中、それを遂行出来る早川。そもそも次元が違う。
『あおいが、俺を疑わなければ、上手くはいかなかった……だから黙ってたのさ』
車のキーを握ったまま、呆気に取られていた私に、早川は右手を差し出す。
『ユカには言って欲しかったな』
『そりゃダメだ……ユカの中にはあおいがいて、あおいの中にはユカがいる。二人共騙さなきゃ、成功してない』
つまり、ユカが事実を知れば、必ず私に伝わり、早川を疑わなかった……。
『お前ら二人共、演技が下手くそだからよ……さあ、俺が運転しよう』
早川の行動は、自分を疑わせる為。裏を返せば、私とユカの絆を信じていてくれたから。
『ユカにも見せたかったぜ? あの時のあおいの顔』
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