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早川の運転で車は進む。
自分の人生は、自分でハンドルを切る。でも今は、この車が私の未来を写している様な感覚。
心地よい揺れに身を預けながら、一人笑っていた。
『あおいさん、どうしたの? ニヤニヤして』
時には私がハンドルを握る日もあるだろう。
大切なのは、悪路も渋滞も乗り越えて、同じ目的地へ向かう事。
そんな未来は、もう想像の中ではない。
『腹減ったな、メシ食ってくか?』
『ドライブがいい! 海とかさ!』
『私もお腹空いた……』
膨れっ面のユカ。
でも今は、早く家に帰りたい。
自分の帰る場所を、噛み締めていたい。
『何食う? ファミレスでいいか?』
『焼き肉っ!』
『私は……ウチでご飯食べたい』
今度は早川が声を上げる。待ちきれないと反対する。
許されるワガママなら、きっと二人は聞いてくれる……もっと、ワガママを言い合いたい。
私はそんな気分だった。
『ん? どうかした?』
助手席から振り返り、ユカがジッと私の顔を見ていた。
『ケンちゃん、駅の側のスーパー寄って? ウチで焼き肉しよっ!』
『ちっ、結局焼き肉かよ』
もう一度振り返り、ウインクするユカ。
重苦しい数ヶ月が、ウソの様に感じる。心地よい温もりに包まれながら、街の灯りが流れる車窓に目を移していた。
『ああ、食った食った。たまに家でやるのも悪くないな』
『ていうか、ケンちゃん、ずっとウチにいなかったじゃん』
ユカと二人で並ぶキッチン……二人で食器を洗う。
すっかり当たり前になったこの生活。
しかし、もう……。
『ここはもういいよあおいさん、ケンちゃんにビール持ってってあげて?』
早川はというと、和室で何やら電卓を叩いていた。
『どうぞ』
『ああ、サンキュー』
一本を手に取り、半分程一気に流し込んだ。
『何してるの?』
『え? ああ……』
早川は答えない。
だが、私は今何をやっているかよりも、知りたい事がある。
「解答編」で語られていない、最後の疑問だ。
『早川さん、もう一つ教えて欲しい』
ようやく顔を上げた早川は、リラックスしきっていて、激闘を想像させない。
『鍵って、何?』
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