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プロポーズのやり直し?
『事件が済んだら、もう一回プロポーズしてくれる約束だったよね?』
『あら、お邪魔なら私……』
早川が部屋を飛び出して行く。呆気に取られるユカ。
『なんだか、変な事言っちゃった?』
『ひひ、照れてるんじゃん?』
ユカは上機嫌で腰を下ろし、ビールを開けようとしている。
『ユカ、お茶になさい。キヨトまで酔っぱらっちゃうわよ?』
『ええ~っ! こんなおめでたい日に?』
『ユカっ!』
足をバタバタして駄々をこねるユカから、ビールを取り上げる。
『じゃあさ、乾杯だけ! ね? いいでしょ、お姉~ちゃ~ん』
甘えるユカをたしなめ、髪を撫でた。これも「姉」としての役目。
『ユカ……良かったね、もう早川さんはどこへも行かない』
ユカはもうすぐ早川の妻となり、夢見ていた幸せを手にする。
子を産み、母となり、幸せな家庭を築くのは、夢ではなく約束された未来。
姉として妹の側で、一瞬一瞬を共に喜び、そして祝ってあげられる。
願い続けていた未来は、私にも訪れるのだ。
『あおいさんもオメデト』
『ん? 何が?』
『ケンちゃんと一緒に、お仕事出来るでしょ?』
私はまだ、本当の目標には届いていない。
今はただ、早川が同じ方向を見てくれただけ。後ろを着いて行くだけしか出来はしない。
パートナーとして認められ、共に戦う力を身に着けた時、やっと一人のビジネスウーマンになれるのだ。
まだスタートライン。祝杯を上げる時ではない。
『あ~あ~あ~』
頭上から聞こえた声に振り返ると、後ろ手を組んで、目を逸らした早川が立っていた。
『ケンちゃ~ん、あおいさんがね、ユカは飲んじゃダメってイジワル言うんだよ~!』
『イ、イジワルって……』
早川はまだ立ったまま。
『こんな日なんだから、乾杯くらいいいよね?』
目だけが、私達の方を向いた。
『あおいの言う事が聞けないのか?』
観念したのか、ユカはペットボトルに手を伸ばす。
『あ~あ~』
早川が再びおかしな声を出し始める。
『どうしたの? 早川さん、喉でも痛いの?』
一度咳払いをし、早川は歩き始めた。
『重大発表がある』
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