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『二人共、ちょっと立ちなさい』
手は後ろに回したまま、未だに目を合わさない。
『これから俺は、ユカにプロポーズをする』
(なっ……)
突然の宣言に、ユカは呆然としている。大体、第三者立ち会いでプロポーズなんて、聞いた事がない。
『早川さん! そんな大切な事……私、外すから』
背を向けた瞬間、ユカが袖を掴んだ。
『あおいさんお願い……側に着いてて?』
極度の緊張からか、ユカの視線は宙を舞っている。しかし……これは私が立ち会うべきではない。
『あおい、俺からも頼む』
よく見ると、早川の膝は震えていた。
『俺はお前ら二人を散々苦しめた。だから、二人に誓う』
早川の真剣な目は、私に身動きを許さなかった。
ようやく、前に出した早川の手には、薄手の紙が握られている。
『あおい、今までありがとう。そして、これからも宜しく頼む……相棒!』
相……棒?
早川が口にした、たった一言が、私の体から視覚と聴覚を奪っていた。
何も見えない……何も聞こえない。
すぐ横で告げられているはずの、ユカへのプロポーズも、私の耳には届かない。
『あおいさん! あおいさん!』
気が付くと、涙で顔をクシャクシャにしたユカが、婚姻届を手にして立っていた。
『なんで、あおいさんまで泣いてんのよ~』
泣いている?
私の顔も、涙で濡れていた。
『ユカ、ブサイク』
『あおいさんだって』
ユカと二人、何度も流した涙。
でも、今までとは違う。
未来への扉が開いた日、初めて私達は、一緒に感激の涙を流す。
それぞれが絶望で涙に暮れた日、互いの温もりを希望と信じ、共に前へ進んだ。
あの日の選択を、私は生涯誇りに思うだろう。
富、名声、地位……。
全てがくすんで見える程の、目映い輝きを放つ財宝。
私の選択した道は、何にも代え難い「絆」を得る旅。
誇らしきこの道を、胸を張って進もう。
親愛なる、二人と共に。
『ユカ、乾杯しよっ!』
『あおい、お前さっき止めてただろ?』
『いける口だね、あおいさん!』
「あおいの選択」 FIN
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