嘲笑

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 彼が目に入った瞬間、僕は足下に穴が空き、そのまま落下しているような錯覚に陥った。絶望という感情を初めて認識した。  例の女子生徒が、彼がここにいた理由を尋ねた。彼は、寝坊をして時間が間に合いそうになかったため、家から学校より近いこの丘へ直接着たらしい。言い終えてから、全員に軽く謝った。  彼を交えて、バーベキューが始まった。    その丘は、僕の住んでいる地域の中では緑の多い場所だった。周りには広葉樹林が広がり、どこからかセミの鳴き声が聞こえる。その中のぽっかりと空いた空間でことは行われることになった。地面には切りそろえられた芝生が生えており、寝転がれば柔らかく受け止めてくれそうだ。ハイキング用に丸太のイスとテーブルが置いてあったが、今回はそれらは使わずに立ったままの会合になった。  丘は海にも面しており、肩まである柵の向こうには水平線が広がっていた。入道雲が低くそびえ、その斜め上方で太陽が白く輝いている。夕方になれば、丁度目の前で夕日が沈むようになっているようだ。    級友たちは、少なからず彼に興味を抱いていたらしい。彼は質問の嵐に見舞われ、僕はそれを傍観する形になった。  そして彼は級友たちと容易く打ち解け、たちまち話の中心になった。いつの間にか、バーベキューを取り仕切るのも彼になっていた。彼はとても手際が良かった。    僕は、ただそこで笑って立っていることしかできないでいた。参加者たちは夏の日差しを受け、額に汗を浮かべていた。僕は全身に冷や汗をかいていた。彼らはこの幸福な時間を噛みしめているようだった。僕は彼らとは分厚いガラスを隔てた別の空間にいた。
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