混乱

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 僕は、一度気を落ち着けるために何かを飲むことにした。今まで僕は椅子に腰掛け、机に肘をつき指を組んだ姿勢をとっていたが、そろそろ腕が痺れてきている。    僕は流しに向かい、コップ一杯の水を飲んだ。生温い水道水だったが、不思議と気分が落ち着いた。僕は流しにコップを置き、腕をだらりと下げた格好で目を瞑った。  鼻からゆっくりと息を吸うと、湿り気のある空気と共に嗅ぎなれた匂いを感じる。僕の生活に染まった、暖かみのない無機質な匂いだ。  既に五年間この暮らしを続けているが、特に不便を感じたことはない。実の親からの月々の仕送りは決して高くはないが、それでも娯楽のようなものに興味のない僕にとっては十分だった。  家事全般は自分でこなし、部屋は常に整理整頓されている。むしろ、親が一緒に暮らしていれば邪魔に思ったかもしれない。  僕は今の暮らしをそれなりに気に入っていた。邪魔されることなく、部屋の中で好きなことができる。僕には趣味と言えるものはないが、誰にも束縛されないという状況が何よりも嬉しかった。部屋から一歩もでない限り、僕は仮面を被る必要などないのだから。
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