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 いつの間にか、道を歩けばけたたましい蝉の声が聞こえ、辺りには逞しい緑色の葉が茂っていた。例年よりも高い気温の中、夏休みが始まった。    僕は、休日になると彼が図書館へ行くところをよく目にした。僕はそのたびに彼に気付かれぬよう、人の陰に隠れるように移動した。彼は手に小さめの黒い手提げ鞄を持っていた。その中に参考書や問題集が入っていたことは、容易に想像できる。  僕は、彼が受験勉強をしていることに驚いた。彼なら今まで通りにやるだけで、十分に最高水準の学校に入れるはずだ。それとも、彼にとってはまだ不十分ということなのだろうか。僕には分からなかった。    僕は、彼女にそのことを教えた。普段の休日にも行くのなら、夏休みの休暇に行かないはずがない。すると彼女は当然、自分も図書館へ行くと言い出した。夏休みを彼と共に過ごせることがよほど嬉しいのか、声が上擦っていた。そんな彼女を見て、僕は憐れみすら感じていた。
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