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イギリスと言う国の片田舎。に美しく気高く建つ大きな屋敷。それこそがヴィンヤード家第二邸である。
鬱蒼と生い茂る庭には庭師が早くも仕事に取りかかっている。真っ赤な血色の薔薇を庭師は鼻歌を歌いながら水をやっていた。この赤薔薇【ブラッディ・ワインレッド】はこの屋敷の主人が特に気に入っている。
屋敷の中では早速シェフによる朝食作りが始まり、メイド達は掃除に料理を運ぶなど慌ただしく動いていた。
さて、その中ではその忙しさから少し離れている部屋があった。メイドが泣きそうになりながら声を張り上げ、頑丈そうな扉をドンドンと叩いている。
「坊ちゃま!朝です~起きて下さい!このドアを開けてくださいぃぃ~」
反応なし。
ミリアと言うまだ年若いメイドは何度もそれを繰り返してはエプロンで涙を拭った。その茶の瞳は軽く腫れ、愛らしい本来の顔がぐしゃぐしゃ。両手は握り締められて赤くなりドアを叩く度にこすれていた。
「坊ちゃまぁ~お願いですぅ~起きてくださぁい!」
もう何度目になるのか。
深い溜め息をついてミリアはぺたんとドアの前に座り込んだ。その時、後方からなんとも規則正しい足音が聞こえ、優しい声が聞こえた。ミリアは勢いよく立ってその声の主に抱きつく。
「おはようございます、サディアさん!」
「おはよう、ミリア」
凛とした声と姿勢に、意志の強そうな蒼の瞳。長い白金の髪を黒いリボンで束ねて隙の無い燕尾服姿。これがこのヴィンヤード家執事、サディアータ・ウェルリースである。ミリアを見てすぐに状況を理解したサディアはさっと時計を見やった。
「立て籠もってからどのくらい経つ?」
「えーと…ちょうど2時間です」
それを聞いたサディアは口角を吊り上げて扉を見つめた。
「『朝』の記録更新だな」
ミリアに下がっているように指示して、サディアは長いすらっとした足をドアの前に突き出し、思い切り蹴飛ばした。
ドアは音を立てて軋み、倒れた。唖然としているミリアにここで待機するように言ってサディアは顔色一つ変えることなく部屋に侵入した。
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