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その部屋は外見の割にシンプルで綺麗に整頓されていた。飾らない美しさと云うのはこういうものだろうか。
20畳はある部屋を進みながらサディアはベッドの前…ではなくそのそばの文机に目を落とした。
そこには穏やかな寝息を立てる青年がいた。
気持ち良さそうに眠る姿は美しく、見惚れそうなものだが、サディアはそんなものを一切感じさせない声で青年を呼んだ。
「フォルクス様、朝です。起きなさい」
命令口調の彼女の言葉にもフォルクスと呼ばれた彼は起きる気配も無かった。サディアは仕方ないと溜め息をついてある物を握った。鞘から出したそれは鈍色に輝く青龍刀。
それをフォルクスの首筋ギリギリの所に突き刺した。
「うおぁっ!?」
フォルクスは飛び起きる。その腹部に突き出される鉄拳を喰らい、呻くのを聞いてサディアは青龍刀を鞘にしまった。
「おはようございます、フォルクス様。ちゃんと目覚めましたか?」
「おはようディア。いつも思うが君は俺に対して乱暴すぎないか?」
ワインレッドの髪に同色の瞳。生気の無さそうな白い肌は病人のようだがきめ細かく、細身なので女性にも見える。
フォルクスはゆっくりと起き上がると苦しそうな声を出した。「私は貴方が死なない程度に手加減しています。それに毎度毎度何故私が来ないと起きないのです?メイド達が私の元へ泣き寝入りしにきています」
サディアはさも当然と言った風に溜め息をつきながら話す。
「朝、昼、晩と私が何度ドアを蹴破っているかご存知ですか?眠る度に鍵を替えて改造するのは止めて下さい。メイド達は毎日貴方の為に流さなくても良い涙を流しています。私もこのように毎日貴方を起こすのに苦労しています。」
それに、とサディアは銀の懐中時計をフォルクスに突き出した。
「今日も記録更新です。こんなに時間が掛かっては皆が困惑します。」
言ってからサディアは時計をフォルクスの前に差し出した。
今までサディアの小言を黙って聞いていたフォルクスはようやく口を開いた。
「だって、お前に起こして欲しいんだもん。」
それなのにお前はさー、と飄々としていて悪気は全く見られない。サディアもサディアで、
「寝言は寝て云うものです。それともあと数時間眠りますか?私の手で」
「ひどいなあ。俺はこんなにもお前を愛しているのに」
さりげなく肩に手を回すフォルクスの手を捻り上げて笑顔で言った。
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