265人が本棚に入れています
本棚に追加
聞こえたのは、氷の様に凍て付いている声だった。
それが聞き慣れたものだと、ティエラはすぐに分からなかった。
「ラフェル・・・」
視線の先にいるのは、衣服を整えてすらいないラフェルだった。
メイザス伯爵は、現れたラフェルを見て、酔い痴れたような笑みを浮かべる。
「貴方が、王太子殿下ですか」
「そうだ。
イズー・メイザス伯爵」
メイザス伯爵の本名を口にしたラフェルに、ティエラは違和感を感じた。
「お知りとは・・・。
もう目をつけられていたのですかな?」
「違う。
自国が併合した国の貴族の名くらい、全て覚えている。
ましてや、自分が滅ぼしたのだし・・・」
自嘲気味に呟くと、メイザス伯爵を含めた男達が感嘆したように息を吐く。
「ご立派です、貴方も。
本当の王太子ならば・・・」
意味深な言葉に、ティエラは不快感を露にする。
ラフェルは淡々としたまま、1歩前に出る。
「戯言は要らない。
さっさと消えれば今回は見逃してやる。
消える意思がないのなら、覚悟をしろ・・・」
宣言し、剣をゆっくりと抜き放つ。
煌めく白刃とラフェルの尋常でない気迫に、メイザス伯爵以外が戦慄する。
「・・・偽りの人形ごときが」
最初のコメントを投稿しよう!