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廃墟
廃墟というものは素晴らしい。そこに人がいた気配だけが残り、プラスイメージのものだけが排除された不思議な空間。それに心地よさを覚える人間は少なくない。田舎過ぎるこの街での生活を苦に思わないのはきっといつでも廃墟に行けるからだと思う。それくらい私は廃墟にとりつかれている。
深夜に家を抜け出して誰も居ない道を歩く。コンビニもないこの街は23時を過ぎれば眠りにつき、0時を過ぎれば都会ではまだないであろう冷たい夜の風が頬を冷やした。住宅街から少し抜けてダムへ向かう道すがらにその廃墟は建っている。大体歩いて15分、何年も手入れのない庭が少し遠くからもわかる。から木々が囲いからはみ出し、その家の前にひかれた歩道に影を落とすのかコケが多く生えていた。埃の積もった門に手をかけ、前に侵入した時に開けてままにした勝手口へ向かう。庭にもコケが生えていてかび臭いにおいが濃くなってきた。ハンカチを挟み扉を開ける。
今日はいつもと違う。そこには先客がいた。ほこりを被ったダイニングテーブルの向こうの椅子に腰をかけた男がいて気まずそうに、やぁと言った。
「ごめんなさいね。」
私は音をたてないようゆっくり扉を閉めようとした。
「待って。」
男は立ち上がり慌ててそれをとめにきた。
「僕の家でもない。君が先にみつけた場所なのだろう。帰るなら僕が帰るべきだ。」
「それでも私のものではないわ。私は眠れなかったから少し徘徊していただけよ。ここにいることはそんなに重要じゃない。」
「夜風が冷たい。ここにいるといい。君が許してくれるなら少しだけ僕もここに居させてもらってもいいかな。僕は僕の用事が済んだら帰るから。」
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