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「父さん、いえ族長、本当に一緒に暮らしてはだめなのですか?」
私はだめと知りつつも族長に聞いた。
「わかっておろう。こやつをサヤに会わせるわけにはいかぬのじゃ」
「ですが」
「まだ言うか、器と巫女が同じ里に生まれてしまったんじゃ。どちらかが里を離れねばならん」
威厳のある強い口調、それでも私は負けたくない。
「じゃあ私も里を……」
「次期族長がか?」
「でも」
「………………」
老人の私の父―――族長の無言の圧力、私はこれに耐えられなかった。負けるわけにはいかなかったのに。
「………わかりました」
私は抱えていた息子の入った籠を、小さな木箱に入れ海に流した。
木箱はゆらゆらと揺れながら沖へと流れていく
そんな中、息子は最後の最後まで笑いながら私に手を伸ばしていた。
「うぅ………」
息子の入った木箱が波に揺られながら遠く離れていく。
私が息子のためにできることはただ生きて拾われることを祈るだけ。
「こんな、こんな情けない母さんを許してね……。」
私は木箱が見えなくなってもずっと海を眺め続けた。もう会えない息子を想いながら。
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