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僕は薄汚れたカウンターに突っ伏した。
冒険なんて面倒だ。
生死をかけて戦ったり、難解なダンジョンを切り抜けたり、薄っぺらい友情を育んだり……
そんなどれもこれも僕には反吐が出る。
ガイはため息をつきながら言った。
「ユーリィ、お前は魔法学校を主席で卒業した優秀な魔法使いじゃないか。昔はあんなにやる気に溢れていたのに……そりゃあ、セイラ様の事は気の毒だったけどな、あれから4年もたつんだ。お前もそろそろ……」
「うるさい! お前には関係ない話だろう? これ以上余計な事を言うと、ここを吹っ飛ばすぞ!」
僕はコーラのビンをガイに投げつけた。
ビンはガイの後ろにあったグラスと共に砕けて、派手な音を立てた。
ガイは舌打ちしながら僕を睨みつける。
「お前もいい加減、前に進むべきだ。現にお前以外の奴らはみんな新しい道を見つけて旅立っていったじゃないか」
ガイの言葉に僕は目を伏せた。
言い返す言葉を探してカウンターをキョロキョロと見るが、何か書いてあるわけがない。
「……あいつらはみんな裏切り者だ。僕にはセイラ様以外の勇者なんて考えられない」
目を閉じれば鮮明に蘇る。
優しくて暖かい手。
僕を困ったように見つめる大きな瞳。
長くて美しい青い髪。
笑うとちょっぴり八重歯が覗く口元。
「それは違うな。もし、セイラ様が生きていればセイラ様は、お前の事を叱るだろうな。臆病者のお前をな」
僕はカッと目を見開いた。
「僕のどこが臆病者なんだ!?」
「こんな山奥に籠もって勇者が来てもけして旅立とうとしないところだ」
僕は唇を噛んだ。
ガイが言った事は図星だったからだ。
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