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Sは旅行先でビデオ店に入った。いろいろ見て回っている内に一本百円という、安いビデオを見つけた。ただ、このビデオは面に「のこぎり」という小さなタイトルが書いてあるだけ。でも安かったからSは買って帰った。
家に帰ると早速Sは二階の自分の部屋で再生してみた。
映ったのは手にのこぎりを持った若い男。その男が髪をふり乱して走っている映像だった。
十分経っても変わらない。一人の男が、どこかに向かってひたすら走っている。それだけだ。ただ、しばらく見ている内にところどころどこかで見かけたことのある風景が混じるようになった。
「くだらんビデオだ。まぁ百円だからな」
ぶつぶつ言いながら眺めていた。そのうち、男の走っている場所がうちの近所ではないかと感じるようになった。
そして、Sの目つきが少し変わった。
スイッチを入れて二十分後。
男はある一軒の家の玄関に立つと、のこぎりで柱を切り始めた。
ギコギコ…
それまで退屈そうに見ていたSが顔色を変えて立ち上がった。
ガラッ
窓を開け下を覗くと
「……!!」
Sの目の前で、若い男がのこぎりを手に玄関の柱を切っている。紛れもなくビデオの男だった。
「やめろ!!」
ギコギコ…
上から大声で怒鳴りつけたが男は手を休めない。
ギコギコ…
「そうか!!」
Sは何かに気付くとすぐ、ビデオのもとに行きスイッチを切った。
ギコ…………
切ると同時にのこぎりの音は止んだ。
「はぁ…よかった…。ビデオで…」
Sはホッと胸を撫で下ろした。
だがその安堵の瞬間も束の間、消したと思われたビデオは勝手に電源がつき、再生された。
ギコギコ……
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