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Dは大阪の病院に入院していた。
無事に手術も終わり、二階の個室に入っていた。
一週間ぐらい経つと体の具合もよくなったので、ある晩、一階の売店まで行ってみようと思った。
「売店まで歩いてみたいのですが」
看護婦さんに相談すると、
「買い物なら私が行って来てあげますよ」
親切に言ってくれたがDは
「そろそろ体をならしたいし、歩く練習もしたいので一人で行かせて下さい」
と頼んだ。
D一人では心配だと思ったのか、看護婦さんが付き添ってくれることになった。
久しぶりに両足で床に立った時にはフラッとよろけそうになった。
「頑張ってね」
看護婦さんの声に励まされながらゆっくりゆっくり歩き始めた。
手すりに捕まりながらどうにか階段を下り、一階の廊下に出たところで、前の方から中年の女性がこちらに向かって静かに歩いて来た。
トイレにでも行くのだろうか。
すれちがう時、Dは頭を下げて挨拶をした。
しかし、その女性はまるでDを無視するかのように顔色ひとつ変えず、スッと通りすぎた。
「失礼な人だなぁ」
ムッとして振り返ろうとしたところ、付き添いの看護婦さんが耳元で囁いた。
「だめですよ振り返っては。あの患者さんは今朝、亡くなった人ですから」
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