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懐中電灯を消して立ち止まると、そっと辺りの様子をうかがった。
しかし、人影らしいものは見えない。不気味な音だけが一段と高く聞こえてくる。
そこからは月明かりだけを頼りに用心深く道を下りた。
100mほど下ったところで、道から少し離れた大きな杉の木の辺りにチラチラと炎が揺れているのが目に入った。
音もそこから響いてきている。
「こんな夜更けに何してんだよ」
体をかがめるとNは震える心を抑え、気付かれぬようにそっと近づいた。
「……!!」
腰を抜かしそうになった。
杉の大木に藁で作った人形が縛りつけられていたのだ。
白い着物を身につけた男が左手に持った長い釘を藁人形に突き刺し、力を込めて槌で打ちつけている。
ゆらゆら燃えるろうそくの薄灯りの中に鬼のような形相が浮かび上がった。
カンッ…
カンッ…
槌を打ち下ろす度に男はぶつぶつ口で何か唱え、まるでそれは地獄を覗いているような光景だった。
…ザッ
Nの足が滑った。
(しまった!!)
と思うと男はサッと振り向き、鋭い目で睨みつけてきた。
『…だ れ だ……』
Nは顔を真っ青にし、ダッと駆け出した。
『見たなぁぁ!!』
うめき声をあげながら男は追い掛けてくる。
Nは死にもの狂いで山道を駆け下りたが、恐怖と夜道のため足が思うように動かない。
『待てぇぇッ!!』
男の声だけが近づいてくる。
そしてやっとの思いで森を抜けたNはふもとの公園まで逃げ込み、公衆便所の一番奥の個室に隠れた。
すぐに追いついた男は便所の入り口に立つと息を弾ませながら、
『ふふッ…ふふッ』
とうす笑いをもらし、手前の個室をノックした。
コン
コン
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