愛情エンジン

1/1
前へ
/12ページ
次へ

愛情エンジン

   私は愛がないと生きられない。    別に精神病ではない。    どんなに健康でも、どんなに楽しくても、なぜかしばらく愛情を感じないとどんどん衰弱してしまう。      最近忙しくて消耗が激しかったのか、とうとう熱を出してぶっ倒れた。      しかたなく電話で今暇そうなあいつに助けを求める。          すぐに駆けつけたそいつは、ベッドで横になる私に少し声をかけ、すぐにキッチンの方へ行ってしまう。      いつもの事だし仮病だと思ってるのだろう。      ごはんより愛が欲しいけど、愛を栄養としか思っていない私がそんな事言えるわけがない。    本当に愛してくれる人なんているのだろうか…。        心が弱っていたせいか、ついくだらない事を聞きたくなる。      『本当の愛ってなんだろね』      あいつはこっちも見ないで言葉を返す。      『本物の愛なんて幻想だよ』      現実主義のあいつに聞いた事を心底後悔する。      せめて他の人の時に聞けばよかった。ばか。        仰向けで目を瞑る私のオデコに、不意に冷たい何かが触れる。      手だ。冷たくて気持ち良い。      『これが愛だよ』      そう言って穏やかに微笑む。 さっき幻想だって言ったくせに。      でも確かにちょっとだけ楽になった。      『人は無駄な事はしない。すべてに意味がある。でも見返りを求める行動は本当の愛じゃない』      たしかに納得できる。    そいつがオデコにのせた右手を左手に変えると、またヒンヤリ気持ち良い。      『これは手が冷たいから暖めてるだけ。だから見返りはいらない。でもそっちは愛だと勘違いする。だから理由が分かると裏切られたような気持ちになる』      あぁなったよ。裏切られたような気持ちに。      『じゃあ会いに来てくれたり、ごはん作ってくれたりするのは何さ?』        『それは好きになって欲しいっていう見返りを求めた下心バリバリの恋心だよ』        ・・・。        私の心にハイオク満タン入りました。        なぜだか愛よりよっぽど効いて、体調不良はふっとんだ。      でもさっきより熱が高くなる。    ここから先は本当に仮病。     予備のタンクにも貯めときたいので、甘えさせていただきます。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

119人が本棚に入れています
本棚に追加